課題報告は、大会1日目(7月13日)の午後に開催予定です。下記の内容で準備を進めています。
○テーマ:社会調査データの保存・公開の現状と展望:再現性や研究倫理に関わる課題に着目して
〇趣旨:
今年度の課題報告では、様々なタイプの社会調査の収集や保存に関わってきた専門家を招き、その意義と展望について考えてみたい。
科学研究が客観性を持つことの重要な要素として、社会調査による研究結果の再現可能性が近年重視されてきている。また、これに関連する潮流としてデータのオープン化も推進されてきている。
量的調査においてはデータアーカイブセンターが日本においても発展・定着してきており、二次分析も今や一般的なものとなった。また社会調査メタデータの国際規格であるData Documentation Initiative(DDI)の導入など、データの標準化を目指すと言えるような動向も存在する。
一方で、質的調査においてはこれらとは異なった状況が一定程度に存在してきたということができる。たとえば、1 回限りの再現不可能な個別事例を対象とする場合や、デジタル化して保存することには馴染みづらいようなデータ・資料の存在などが挙げられる。あるいは、研究倫理の観点から公開を前提としないデータも存在するだろう。これらの論点からは、データの標準化や結果の再現性という概念には収まりきらない問題があり、またそもそも標準化や再現性が何を意味するのかという定義や目的を注意深く検討する必要があることも示唆される。
さらに、特に地域社会を対象とした調査においては行政や住民に影響がおよぶ可能性があるため、データの保存や公開においては目的やプロセスを考慮する必要があるし、そもそもデータの保存や公開の是非を判断することが難しいものもある。以上を踏まえつつ本課題報告では、地域学会という本学会の視点を活かしながら、社会調査データの収集・保存・公開に関するよりよい実践について考えてみたい。
第一報告者の小杉亮子会員は、社会運動の記録をはじめとした質的データのアーカイブズに関心を持ち、アーカイブズ関係者へのインタビューをおこなってきた。「アーカイブ/アーカイブズ」の語源とその社会的含意や、イギリスにおける質的データの専門機関の例についてご報告いただく予定である。また、「社会調査の文脈ごとの保存・整理」という視点から、研究者のメモや会議録が対象になる場合があることなどもご紹介いただく。
第二報告者の三輪哲会員は、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターにおいて、量的調査のアーカイブの推進に努められてきた。日本のデータアーカイブの経緯と現状、データアーカイブがもたらした意義とその未来像についてまとめていただき、さらにメタデータやデータマネジメントプランなど今後の展望を述べていただく予定である。
第三報告者の平井太郎会員は、アクション・リサーチの視点から量的調査では見過ごされやすい「外れ値」となる事例や、「参加型調査」というデータが作られていくプロセスを重視した形態の調査に取り組まれてきた。地域調査の中には行政が合意調達のための手段としても用いてきたものもあるという問題意識から、データやアーカイブズは誰のためのものなのか、何のために生成・整備するのかといった視点を盛り込んだご報告をいただく予定である。
コメンテーターの山本薫子氏は、横浜やカナダにおいて都市インナーエリアの社会課題、社会変化をテーマにフィールドワークをおこなってきた。その中で、地域に関わる社会調査が持つ倫理的課題についても関心を持ち、研究をされてきた。また朝岡誠氏は、海外データアーカイブ、オープンサイエンスに関する研究に取り組まれている。これらのご見識から各報告にコメントをいただきたい。
報告者:
小杉亮子会員(埼玉大学)
三輪哲会員(立教大学)
平井太郎会員(弘前大学)
コメンテーター:
山本薫子氏(東京都立大学)
朝岡誠氏(国立情報学研究所)
司会・コーディネーター:
小川和孝会員(東北大学)
下瀬川陽会員(作新学院大学)